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遊馬への返事を放課後まで、と区切ったのは俺自身、まだ迷っている部分もあるからだった。
昼休みの説明で、あの胡散臭いゲームに魅力を感じたわけではない。……むしろ悪印象のほうが多いぞ、現状。
ただ、気にならないと言えば嘘になる程度の関心は惹かれた。
hollyhock・hill。
葵陵学園の生徒IDを所持したものにしか、そのもうひとつのセカイへの扉は開かれないのだ、という。
卒業した生徒が、のちに自らのアカウントを使用してログインしようとしたが果たせず、それが発覚した。
そののち、わざわざ校内サーバーを使って試してみても、彼はトップページさえ見つけることが出来なかったのだ……。
午後の授業の間、教師の目をごまかしながらサインフレームの片隅に学内BBSのログを引っ張り出し、試しに検索して俺はそれを知った。
ちょっとキーワード検索しただけで、関連記事がめちゃくちゃ引っ掛かって、逆に欲しい情報探しづらかったんだけどな。
サインフレームから溢れそうな膨大なスレッドは、そのままhollyhock・hillへの関心の高さをそのまま示しているように見えた。
いまとなっては葵陵学園の生徒のほとんどがやっている、知らないものなどいない──そのくせ、ひっそりと存在を隠された奇妙なオンラインゲーム。
……一体誰が、なんの目的でこんなもの作ったんだろうな?
しかもそれを、わざわざ葵陵の生徒だけに限定して使わせることに、なんの意味があるってんだ?
いまさら、俺がゲームを始めただけで、それを説き明かせるとはさすがに思わない。
ただし、実際の体験は俺のいくばくかの好奇心を満たすだろう。
あるいはチープさに失望するだけかもしれないが、それならそれで構わない。
……ちょっと無料ゲームのアカウントをひとつ、作るだけだ。
なにか目的があるわけでもない、義務が生じるわけでもないだろう?
たかがゲームじゃないか。
それなら、と。
ホームルームが終わるころには、俺の覚悟も決まっていた。
その決断が未来、俺にどんな結果をもたらすのか、そんなことを知るよしもなく。
「……アレ、やってみることにするわ」
きょとん、と細い目を見開いて遊馬は俺の顔をじっと見た。おい、手が止まってんぞ。
「ワリ。いや意外だったからさ?……正直、断られるかと思ってた」
今度は作業の手を止めず、遊馬はそう言った。
や、実際のところ、まだ蟠りがないと言ったら嘘になるんだがけど、な。
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