110人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなの、決まってるよな。
「こうする」
ぐ、と俺は背後に庇ったやつの腕を掴み、引き寄せた。しっかりこの胸に抱くように。
「あんたにこいつは渡せない」
見得を、切った。
っああああやっちまったぁあ!
こんちくしょう。
ここで見捨てられるなら、最初から介入するか!
「なっ!?」
「貴様……っ!」
戸惑う声は腕の中から。
その手を離せと激昂する声は──対峙した相手から。
その二つを無視して、俺は懐に隠し持っていた自作の白い呪符を発動させた。
間に合った。
即座に足元で白く輝く魔法陣。
魔力は十分、足りるはず。
さっき使ったポイント分の魔力は睨み合っている間にチャージした。
……あっちが余裕かましてくれて助かったわ。
だって、なぁ?
まともに戦って勝てない相手なら、逃げるしかないだろ?
「強制ログアウト」
俺の言葉が、発動のための最後のキー。
すさまじい早さで白い光に塗り潰されていく視界の中、黒衣の騎士が何かを叫んでいるのは見えたけれど、そんなもんは無視だ無視。
グッバイ、アディオス、サヨナラ、再見。ついでにアデュー。
出来ることなら永遠に。
「ばいばいきーん☆」
「貴様……っふざけるなぁあああっ!」
やけに鮮明に聞こえた罵声を最後に、腕の中のやつごと離脱完了。
ぶつん、と画面の電源を強引に断ち切ったときのあとに、俺の視界は一瞬で白から黒一色に切り替わった。
なんとか、逃げ切れたな。
厄介事をしょい込んじまった予感だけをひしひしと感じながら、俺はひとまず逃げ切れたことへの安堵に、溜め息を漏らしていた──。
◇
最初のコメントを投稿しよう!