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「乙葉ー、早く!」
競争と言ってたくせに、琉亜は何メートル先で私を呼んでいた。
「…もう。競争って言ったくせに」
琉亜は足が凄く速くて、競争ではいつも負けてしまう。
だから、足が遅い私を待っていてくれてるのだろう。
でもそれは余計なお世話だ。
「乙葉、本当に早く!」
何メートル先で琉亜が焦っていた。
何を焦っているのだろう。
私には何も分からなかった。
「何やってるんだ?」
「ひゃっ!」
突然聞こえた低くて身体に響く声に思わず変な声が出た。
「…あ、すいません………あーー!」
後ろを振り返って見ると、そこには男子高校生が立っていた。
「…うっせーな」
男子高校生は耳を塞いでいる。
どうして?私の前を歩いてたはずじゃ。
「あー、炎!あんた、乙葉を連れて先に行って」
何メートル先で琉亜が叫んでいる。
先行ってって……何で?
訳も分からずたじたじしていると炎と呼ばれた少年は私の腕を掴む。
「えっ……何?」
「……ここは危険だ。離れるぞ」
炎は聞こえるようにそう言うと腕を引いて走り出す。
炎も足が速く、転ばないようにするので精一杯だった。
途中、止まっている琉亜とすれ違った。
どうして?何で逃げなきゃいけないの?
「る、琉亜…!」
後ろを振り返った私は驚愕した。
後ろにはスライムのようゼリーが動いていた。
「……おい、早く行くぞ」
炎は私の腕を引っ張って走ろうとしている。
「…何……あれ」
完全に言葉が出なかった。
「乙葉……早く行って!」
琉亜は放心状態の私を見てそう言う。
「…琉亜も一緒に行こうよ」
私と一緒に逃げて欲しかった。
「……ごめん。でも必ず後から行くから」
琉亜は炎に何か合図をしたようだった。
「……行くぞ」
炎は私の腕を引いて走り始める。
抵抗したけど男の力にはかなわない。
炎に力づくで走る。
私はただ琉亜の名前を叫ぶことしか出来なかった。
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