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切れ長の目をした女は、馬から降りて微笑んだ。優しげな笑みだと言うのに、傲慢さを感じられる不敵な微笑にも見える。
彼女は信玄と謙信にぺこりと頭を下げた。着物の両端をつまむという、二人には馴染みの無い礼の取り方である。
「ごきげんよう。信玄公、謙信公。伊達家が姫、珱と申します」
女――珱は穏やかに名乗った。戦場においては、あまりに静かな声に、信玄と謙信は闘気をそがれそうになる。しかし気を取り直して、武器を構え直した。
「伊達の姫か……噂には聞いていたが、本当に前線に出るのだな」
「ひめのみでたたかうとは――ゆうもうかかん……いさましきこと」
「お褒めの言葉と取っておきましょう」
珱はすそから両手を離す。代わりに、いつの間にかその手には一対の鉄扇が握られていた。
ただの鉄扇ではない。刃のように――否、刃そのものの鋭さを持つ鉄板を重ねた、戦闘用に改造された扇である。施された装飾のおかげで武骨さは無いものの、女性が持つにはいささか不格好だ。
重量も少なくは無いだろうに――珱が苦にした様子は無かった。
「お二人のお邪魔をしておきながら恐縮ですが、お手合わせをお願いしたい」
「手合わせ――じゃと?」
「せっかくなのですから……ね」
珱は二つの鉄扇を構えた。背後の男に目を向け、指示を出した。
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