第三話

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 乱入者とは、身体の線が解るような、妙に露出の多い変わったしのび装束のくのいちである。短い金の髪をした美貌の彼女は、謙信の後ろに降り立つと膝を折った。表情はやや強張っている。 「どうしましたか、かすが」  謙信にかすがと呼ばれたくのいちは、恐縮したようにこうべを垂れた。 「はい……伊達軍が、こちらに攻めてきましたっ」 「だてが?」 「なんと……」  謙信と信玄の目が見開かれた。  彼らは、伊達軍が川中島に向かっていることは知っていた。しかし、二人は伊達軍が妻女山にある空の上杉の陣にいるとばかり思っていたのである。驚くのも無理は無い。  彼らの予想は、決して間違っていない。政宗率いる伊達軍は、現在妻女山にて真田幸村率いる啄木鳥隊と交戦中である。  しかし、武田と上杉は知らなかったのだ。伊達軍が二分され、別行動を取っていたことなど。それは勿論、伊達の黒脛巾組の情報操作が功をそうしたことを表す。  そして、彼らの目をかいくぐった伊達軍を率いるのは。 「先頭に立っているのは……独眼竜ではなく、おなごだと」 「おなご?」 「となると……もしや伊達の」  信玄が何やら言いかけた時、戦場に先程とは違う騒音が響き始めた。  それに三人が顔を上げると、青い軍勢が遠くから戦場に斬り込む姿が目に映る。そしてその先頭に立つのは、長い髪を藤のかんざしでまとめ上げた年若い女だった。動きやすいように改造された着物をまとい、馬に横座りで乗っている。上品な座り方ではあるが、手綱さばきはさすが伊達軍の者と言わざるをえなかった。  女は二人の屈強そうな男を従え、一目散に三人の元へ馬を走らせる。気が付いた時には、馬は三人の前に止まっていた。
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