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「く、詳しく聞かせてくれないか!?」
まるでマタタビにおびき寄せられた猫のような食いつきに、女性――水橋知季は苦笑しながら答える。
「良いよ?律子も今海外に行っちゃって寂しいとこだったからね」
彼女は、目の前でキラキラと目を輝かせる少女、南条光に過去の自分を重ねているようだった。
「さて、鹿島君」
全体的に黒い、としか形容できない大柄な初老の男性が、ネクタイを締め直しながら口を開く。
今、悠志の目の前にいるこの男性こそが、765プロの社長である高木順一朗その人だ。
悠志は社長直々に呼び出され、社長室へ出向いていた。
社長が座っている椅子の後ろ、窓際に設置されたカーテンの一つが不自然に膨らんでいる事から、悠志は社長が何を言わんとするかを察する。
「はい、社長」
「うむ、良い返事だね。君が担当してもらう事になるアイドル候補生を紹介しよう……原田君、こっちだ」
高木が手拍子を鳴らすと、やはりカーテンに車って隠れていた人物が姿を現す。
短めの黒髪をポニーテールに纏めた、タンクトップ姿の少女。
微かに機械油が付着している頬と、翡翠色の瞳が悠志の印象に残った。
「原田美世です、えっとその、よろしくお願いします!」
「鹿島悠志だ、こちらこそよろしく頼む」
差し出してきた美世の手を取り、悠志は彼女と握手を交わす。
機械を弄っている事は想像できたが、その割には柔らかい手だった。
「後は二人でミーティングをしてくれたまえ、私はこれにて失礼するよ」
高木は、鷹揚に笑いながら席を立つ。
海外講演がどうこうという話から、きっと忙しいのだと悠志は推察する。
そして、社長の机の上にも三体のガンプラ……ドムが飾ってあるのを見て、改めて凄まじいブームになった物だと、悠志は心中で独り言ちた。
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