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一方、都心に位置するマンションの一室から出てきた青年――香川義昭は驚きを顕わにしていた。
「もう!世界一カワイイこのボクを待たせるなんて、プロデューサーはどうかしてますよ!」
青みがかかった銀髪の少女は薄べったい胸を張って、彼女のプロデューサーである義昭を詰る。
恐らく先駆けてわざわざ自分の部屋の前までやって来て、長い間待っていたのだろう。肌が青白い。
慣れた事だとはいえ、その自信の根拠はどこにあるのか、もしくは突拍子もない反論で水掛け論に持ち込んだら彼女がどういう反応を返すのかと青年は考えたが、考えるだけだ。
「そうだね、それじゃ行こうか、幸子」
「何か今、軽くあしらいませんでした?……まあ良いです、ほら、荷物持ってください」
幸子と呼ばれた少女――輿水幸子は、肩にかけていたショルダーバッグを義昭に手渡すと、満足げに微笑む。
中身は勉強ノートや教科書の類で、そう重い物でもないのだが、いつしか義昭が幸子の荷物を持つのが慣例になっていたから、彼はそうしているのだ。
「それよりプロデューサー、例のアレはどうなったんですか?」
ボクが輝くための最高のガンプラですよ、と幸子は付け加え、義昭の顔を覗き込む。
「うん、まあ八割は出来てるけど、できるところは幸子にやってもらうよ」
義昭は所謂制作代行というのをやっているが、知り合いに頼まれると知り合いにも手を動かしてもらうというこだわりがある。
これは当初から彼が頑として譲らない部分であり、お世辞にも器用だとは言えない幸子はそこが億劫だった。
合わせ目消しはノートの清書に通じる物があって、嫌いではないのだが。
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