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「引き分けかよ」
「何だ、惜しいな」
「まあ仕方ないだろ、あれだけの戦いを見れただけでも儲けもんだ」
ギャラリーが口々に期待外れな結果を嘆き、或は両者の健闘を讃えている中で、悠志は一人だけ様子が違う人間を見付けた。
その男は不気味に半笑いを浮かべ、まるで値踏みをするかのような視線をライブモニターに向けている。
おかしい、と言うつもりはないが、何かを探っているようにも見える事で、悠志のお節介な性分は「奴を探れ」と彼へ訴えていたのだ。
と、その時。その男と悠志の視線が合った。
相変わらずの半笑いだったが、眉が引き攣っている。男は僅かに驚いているようだ。
しかし、男はそのまま何も無かったかのように立ち去っていく。
(知り合い、ではなさそうだな)
どこか不穏な物を感じながらも、悠志も何事も無かったかのように筺体に近付く。
「あ、鹿島さんなの!」
明るく、甘ったるい声が、悠志を呼び止めた。
フルセイバーという機体から想像こそしていたが、まさか現実になるとは。
「美希か、そんな気はしていたが……」
「おお、誰かと思えば鹿島君じゃないか」
どうやら知り合いは一人だけでは無かったようだ。
もう一方の筺体から出てきた筋肉質で健康的な青年……高峰宗一は、悠志の先輩に当たるプロデューサーだ。
「高峰先輩……と、いう事は千早も?」
「いや、千早は先に帰ったよ。鹿島君がいないから俺が美希に練習相手をせがまれてね」
こっちも良い練習になったよ、と言いながら宗一は豪快に笑う。
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