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「彩里ちゃん!まだ着かねぇのかよ!」
「真嶋さん、声が大きいですよ」
歳の離れたカップルなのだろうか?一方は、紺色のスーツ姿の真面目そうな若い女性。
それとは対照的にブルージーンズに着古したジャケット姿という、ラフな格好をした男性。
どうにも不釣り合いなカップルの女性が、困ったように男を諫めながら僕の横を通過して行く。
「これは地声なの彩里ちゃん」
「分かりましたから、彩里ちゃんはやめて下さい」
彩里と呼ばれた二十歳そこそこの女性は、慌てて辺りを見回し、何気なく状況を観察していた僕と目が合った。
「えっ!?」
(目が合っちゃったよ)
申し訳なさそうに頭を下げる彩里さんに、僕は戸惑いながら会釈を返した。
「ねえ、不倫旅行かな?」
男の背中を押しながら通路を進んで行く彩里さんを、何となく目で追い掛けていた僕に、美歩は小さく耳打ちして来た。
「えっ?」
僕は興味なさげに美歩を振り向くと「まさか」とだけ呟いた。
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