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「お、お嬢さん、このバスは火葬場ではなく、クレニックに行くためのバスですよ。ご安心を……」
バスの乗降口で招待状の確認をしていた従業員は、焦ったように顔を引きつらせながらも、丁寧に説明してくれていた。
「す、済みません」
従業員とバスに乗り込もうとしていた人々に頭を下げた僕は、早々に招待状を差し出し確認してもらうと、美歩を引き摺るようにバスに乗り込んだ。
「状況を考えてよ!」
「……ごめん」
さすがに火葬場はマズかったと、美歩が珍しく素直に謝った。
それをいいことに、僕は普段は絶対に言えない小言を言ってやろうと、美歩を見据えた。
「美歩、この前も────」
「だから、ごめんって言ってるでしょ!」
僕は、美歩の迫力に負けてしまった。
「わ、分かれば、いいんだけど……」
美歩から目を反らせ口籠もった僕は、窓から見える景色に目を向けるしか出来なかった。
(何だよ!僕が悪いの?)
落ち込んでいても、やはり美歩は無敵だった。
「彩里ちゃん、俺の席は何処よ」
(んっ?この声は……)
見たくもない窓を眺めていた僕の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んで来た。
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