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「──よう、煉。大変だったらしいな」
「えっ?……藤堂くん。どうしたの」
大学で話し掛けてくれる数少ない友人が、心配そうに僕を見下ろしていた。
「お、おう。ちょっと顔を見に来ただけだよ。──あれから1週間か……まあ頑張れよ」
「う、うん……」
(頑張る?一体なにを……)
困惑する僕を残して藤堂くんは帰ってしまい、やけに静かになった真っ白い部屋の中に、どうやら僕の他には誰もいない感じがした。
「相変わらず、不気味なほど静かだな」
鼻に付く消毒液の匂いに、ここが病院なのだろうと想像はついていた。
(そういえば……僕はどうして、こんな場所にいるんだ?)
微かに頭の中には、記憶らしいものは残っていた。
「痛っ!……頭が、頭が痛い……」
しかし、その記憶を思い出そうとする度に、脳がそれを拒絶していた。
「……ッ!何なんだよ!」
砕け散りそうな頭を抱え、僕はベッドにうずくまり、のた打ち回る。
こんな時に思い出すのは、大学では“チキン”で有名なこんな僕のことを“一番大切な人”と、愛しんでくれる美歩のことだった。
「美歩……そうだ、確か美歩と……」
僕は、強い拒否反応を繰り返す脳に背き、拙い記憶を手繰り寄せてみた。
(確か、あれは……)
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