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「そ、そうなんですか」
上ずった声で返事を返すと、僕はまた視線をクレニックに戻す。
しかし、僕以上に驚きを隠せなかったのは、美歩の方だった。
「なっ、どうして……!」
「よう、久しぶりだな」
男は屈託のない笑顔を美歩に見せ、懐かしそうに声を掛けて来ていた。
「れ、煉、あっちに行ってみようよ」
そう話し掛けられたにも関わらず、美歩は強引に僕の腕を掴むと有無を言わさず引き摺り出した。
「み、美歩……ちょっと待ってよ!!」
訳も分からず引き摺られて行く僕の目は、すぐ後に現れた知的な美人を捕えていた。
「もう、可愛い娘を見たらすぐにちょっかいを出すんだから」
知的な女性は、ナンパ男を見付けるなり呆れたように顔を曇らせていた。
「ねえ、美歩……知り合いじゃなかったの?」
腕を捕まれたまま、ぎこちなく歩く僕は、不自然な態度を取る美歩に問い掛けてみた。
「し、知らない人よ!誰かと、間違ってるんじゃないの。気持ち悪い!」
(知らない人?そうは見えなかったけどなぁ……)
僕の腕を離し、一人先へ歩き出した美歩から微かに声が洩れ聞こえた気がした。
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