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『どうして今頃になって現れるのよ』──と。
「ちょっと美歩!何処まで行くつもりだよ!」
「何処でもいいでしょ!」
何をヤケになっているのか分からない美歩は、怒りに任せ歩いているようにしか見えなかった。
「美歩!」
仕方なく僕は、美歩の後を追い掛け腕を掴んだ。
「……迷子になると困るから」
「えっ?」
その言葉に突然立ち止まった美歩は、不安そうに僕を振り返り上目遣いで少し見上げる。
「もしかして……迷子になったの?」
いくら破天荒な美歩でも、見知らぬ土地での迷子は、さすがに怖いようで……。
「まだなってないよ。このまま引き返せばね」
「……うん」
美歩は自分の取った行動を恥じたのか、素直に頷くと僕に手を差し出して来たのだった。
「ごめんね」
そう、謝る美歩が苛立っていたのは、明らかに今さっきの男性のせいだと言うことは分かっていた。
……気にならない訳では無い。
けど……それでも僕には美歩しかいないから……。
握りしめた美歩の手は、冷たく小刻みに震えていた。
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