空白の五年間は気にしないで下さい。

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俺は父さんの眠っている玄関から、母さん達のいる寝室まで来た。 「母さん。終わったよ」 「セイム! 無事だったのね! 良かった……。本当に良かった……」 俺は母さんに強く抱きしめられていた。 この温もりも……これからはお別れだな。 「そういえば……レオンは? まさか……!」 「いや。激しい闘いだったから気絶して眠ってるよ」 本当は俺が眠らしたんだけどな。 「あに様。何かあったんですか?」 レイリが涙目で俺に訊いてきた。 お母さんにも同じことを何回も言ったんだろな……。 仕方ないな……。ちょっとだけ本当の事を言ってやるか。……ちょっとだけ冗談を混ぜて。 「実はね……悪い人が襲ってきたんだ」 「悪い人?」 「そう。レイリなんかじゃあガブリッ、と食われちゃうぞ~」 「ひぃん!? 恐いのは嫌いですぅ~……」 「ハハハ。でも悪い奴は俺が倒したから大丈夫だよ。……だから、安心して───おやすみ。『記憶封印』」 俺はレイリの頭に手をかざす。 すると、レイリはいきなり倒れてしまった。 「セイム!? 貴方何してるの!?」 「ちょっとだけ記憶を封印しただけさ」 「記憶を……封印? どうしてそんな事を……?」 う~ん。説明するの面倒だな~……。 「それは……10年後に父さんに訊いてくれ。それじゃ──」 「──待って!!」 俺が記憶を封印しようとすると止められた。 「まだ……何か言うことあるの?」 「ええ。一つだけ貴方に問いたい事があるの……。 ──貴方はこの家族を愛してる?」 愚問だね……。そんなの── 「──愛してるさ。自分でもバカだと思うくらいに……」 そう言った時、俺の目から涙が一滴落ちた。 何で自分が涙を出したのかわからない。 悲しいのか、または嬉しいのか、俺の感情の筈なのにまったくわからない。 でもただ一つ言えるのが── 「──また会おうな。母さん、さようなら。『記憶封印』」 すると、母さんは笑いながら眠ってしまった。 「ヒグッ……エグッ……」 今わかった自分の感情は…… ……とても悲しくて堪らなかった。
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