21人が本棚に入れています
本棚に追加
散歩に出るなど久し振りの事
だった。最後に履いたのがいつ
だったか記憶にもない、運動靴
とは名ばかりの安物の埃を払い
足を突っ込んでみる。
いつもの革靴とは違った柔ら
かい感触が足裏に心地よい。
少しばかり肌寒い。ちょっと
薄手の上着を引っ掛け、玄関の
ドアを押した。
清々しい秋の空気が、鼻孔を抜けて脳に到達する。
それだけで、何やら非日常を
感じるほどの単調な毎日だった
と改めて気付かされた。
いつもの道を、運動靴で歩き
始める。
毎日、足に固く抵抗していた
アスファルトの道路が、今日は
やけに優しかった。
「そうだよ、昔はいつだって
こんな感じだった」ふと子供の
頃に履いていた、お気に入りの
運動靴を思い出す。「あの頃は
どんな時も、同なじ靴を履いて
いたっけな、ふふふ」無邪気に
遊ぶだけの、生活の事など何も
考えずによかった子供時代が、
まるで王様の暮らしの様に思え
る大人の自分がそこにいた。
.
最初のコメントを投稿しよう!