気づき

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 ゆっくりと、歩みを進める。  いつもなら、会社に行く為に ただ慌ただしく通り過ぎるだけ のこの道を、今日はゆっくりと 歩いてみる。  道路脇に小さな植木鉢が並ん でいる。斜向かいのお宅のもの らしい。  「へぇ、ここの家は、こんな 名前だったのか」洋風の横長の 赤いポストに家族の名前が書い てある。子供が二人いる様だ。 お兄ちゃんと妹である。  「家族か……」  自分は『何も持っていない』のだと思い知らされる。  「オレは……今まで何をして いたんだろう。何の為に生きて 来たんだろう。いや待て、果た してオレは……『生きて』来た んだろうか?ただ毎日を、やり 過ごしていたんじゃないのか」  もうすぐ50にもなろうとする 男の自問の散歩が続く。  いつも見慣れた筈のこの道を ゆっくり歩いて見渡せば、何も 知らなかった自分に驚かされて ばかりである。  「オレは今まで一体何を見て いたんだ。何も見ていなかった じゃないか」  知っている筈のこの《道》は ……実は《未知》であった。 .
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