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その看板をくぐり、商店街に
足を踏み入れた。その時に何か
おかしな感覚はあった。空気の
壁を抜けると言うか、水の中を
歩く時にも似た、変な圧迫感と
でも言うか、とにかくおかしな
感覚だったのだ。
それがこの、不思議な体験の
始まりであった。
何か目眩の様な感覚もあった
のだが、気に留めるほどのもの
でもない。私は奥に進んだ。
そこには昔ながらの商店街が
広がっていた。懐かしい風景に
私の心は踊った。「こんな所が
まだあるんだなぁ」その時には
まだ、それぐらいにしか思って
いなかった。だが妙な違和感は
その後も私に纏わり着いて離れ
なかった。
その違和感の理由が、徐々に
明らかになっていく。
その街並みを見ると、一様に
軒が低い。古い建物ばかりなの
だが、どこか見覚えがある。
「これは」全身が総毛立つ。
「俺の田舎の、昔の風景じゃ
ないか!」
その瞬間、周りの世界が私を
中心に、グルリと回転したかの
様な錯覚に陥った。一体、何が
起きているのか解らなかった。
「何なんだこれは!俺は夢を
見ているのか?それとも、頭が
どうかしてしまったのか……」
自分自身の正気を疑った私の足は動きを失い、暫し立ちすく
んでしまう。
夢にしては剰りにもハッキリ
し過ぎている。頭の整理が着か
ないままに茫然としていると、
「わあぁ!」喚声が湧き、路地
から半ズボンにランニング姿の
子供達が飛び出して来た。その
声に我を取り戻した。
「まぁいい」私に、妙な開き
直りが生まれる。「もう何でも
いい」私はこの世界を楽しむ事
に決めた。
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