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「……柚子、そろそろ起きてくれない?」
「……起きていますけど?」
「そう、だったら、離れて」
「葵さんは私に触れられるのは嫌ですか?」
同じベッドの上、隣に横たわるクラスメートが、袖を掴む手に力を込めてくる。
その身じろぎに合わせ、狭い空間に押し込められた長髪が肌に当たってくすぐったい。
「嫌じゃ……ないけど」
「だったら、いいじゃないですか」
「う……」
「葵さんは、本当にいい匂いがしますね」
「ひゃん!やめて……!」
耳に息はやめて、お願い。そこは敏感なんだから、本当、切実に。
「女の子みたいでかわいいです」
「僕は……男だよ!」
「ふふ、知っています。もう一度だけ、いいですか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「いけず……」
「ダメったらダメ!」
あー……と、一応弁解しておくと、事後なんかじゃないからね?
ていうか、僕達は名前で呼び合うレベルの関係ですらないからね?
葵も柚子も苗字、苗字だからね?
服もちゃんと着てるし、ベッドと言っても学校の保健室のベッドだし。
僕は貧血起こした柚子を連れてきて、寝ぼけたこの人に引きずり込まれただけだから。起きたら起きたで放してくれないけど。
保健医不在なら、それでもちょっとしたシチュエーションに見えそうだけど、いるからね、ちゃんと。
生暖かい目でこっち見るばかりで、助けてくれる気配は微塵もないけど、うるさくなりそうなら止めるよね、さすがに。
「お前ら、おっぱじめる気なら、声かけろよ。出てくから。シーツくらい取り替えてやるが、ばれないようにとかのマニアックプレイのエキストラに俺を使おうとするなよ?」
あ、ダメだ、この大人。男の保健医って、それだけで女子から文句でそうなのに、これは完全アウトでしょ。
「大丈夫です、そんなことしませんから」
「訴えますよ?」
「おおぅ」
ちなみに、大丈夫が柚子、訴えるが僕。
別にがっかりとかしてないよ、柚子はただのクラスメートだからね。
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