任務

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どこからか、獣の唸り声が聞こえた気がした。 始め、気のせいかと思ったそれは、時間が経つにつれて徐々に数が増え、また、はっきりと聞こえるようになって来た。 草木も眠る丑三つ時、普段寝付きのいい私にしては珍しく、今夜はなんとなく寝付けずにいた。 そこで、気分転換に散歩でも。 そう考えた私は他のメンバーに気付かれないように、こっそりと結界を抜け出すと、この森に足を踏み入れたのだった。 そうして十数分程経っただろうか。 どこか、そう遠くない場所から獣の声が聞こえて来たのだ。 それらは少しずつ数を増し、徐々に大きくなって、瞬く間に私の周りを取り囲んでしまった。 「へぇ、大した連携だね」 思わず口から彼らに対する称賛の言葉が零れ出た。 その声音はまるで、旧知の友人に語りかけるがごとく親しげなもので、とても凶暴な獣を前にした人間のものとは思えない。 しかし、昼間にパーティーの仲間達と一緒にいくら探しても、彼らは姿を見せなかったのだ。 そして、その状況に心底退屈していた所に向こうから近づいて来てくれたため、私は幾分興奮気味だった。 それでも、さっきはパーティーメンバーと一緒で、今は一人きり。 向こうもそれを承知で狙ってきたのだろう。元々連中は夜行性の魔物に加えて更に今夜は満月。 今の連中は普段以上のスペックで暴れる事が出来る。 ふと上を見上げると、今まで雲に隠れていたお月様が丁度顔を出し、暗黒の森に淡く優しげな一筋の月光が差し込む所だった。 再び周囲に目を向けると、差し込んだ月光のおかげで、周りの茂みのそこかしこから金色に輝く鋭い目が出現した。 彼らのその血走った目からは、紛れもない強い敵意と殺意が見てとれる。 私が気を抜いたら今にも飛び掛かってきそうなその気迫に、身体中がピリピリする。 しかし、それは恐怖ではなく、血湧き肉踊るような興奮からくるものだ。 「そうこなくっちゃ」 私は高ぶる気持ちを押さえつつ、ゆっくりと背中に手を回す。 背中に交差させる形で吊り下げてある自らの得物に手を伸ばし、しっかりとグリップを握る。 そこまですると、向こうも私の雰囲気の変化を感じたのか、一度動きを止めた。 だが、その緊張状態は長く続かず、やがて、彼我の間を一陣の風が過ぎ去った瞬間……。 血みどろの殺し合いが始まった。
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