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佐伯さんは私を椅子に座らせて、コポコポ心地よい音をたてながら、コーヒーを淹れてくれた。
ひとりでは手が足りないというので、働かせてもらえないかと尋ねたら、佐伯さんは快諾してくれた。
「頼みます」と。
今思えば、人手が足りないなんて、わざわざ初対面の私なんかに言うことなかったのに。
この空間が欲しかった私は、その言葉の裏に忍ばせた優しさに気づかず、そのまま真に受けて、
それまでしていた薬局のアルバイトを、あっさり辞めた。
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客がまばらになり始め、外が大分暗くなった。お菓子の入っているケースの中も、寂しくなる。
「千晶もコーヒー、飲む?」
テーブルを拭いて、布巾を洗おうとカウンター裏に戻ると、佐伯さんが言った。
「いただきます」
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