封じられた想い

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「受験は、しないって言ってあるんだけどね。」 隣に居る私とは、目を合わさずに、真っ直ぐ前を見ながら、彼は続ける。 「そういうわけにも、いかないよね。」 自嘲気味に笑うその顔が痛々しい。 彼の家庭状況がどんなで、どんな想いでここに来て、何を考えているのか。 このことに触れることを訊いてしまうと、彼はいつもこんな表情をする。 だから、今まで訊かなかった。訊くつもりもなかった。 自分まで、息がしづらくなるような気になる。 手に持っているペットボトルのお茶が、大分ぬるくなってしまっていることにも気づかず、無意識に握り締めた。
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