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まだ夜が明けきっていない、少し冷たい空気が張り詰めた三月の静かな道。大した大きさのない道だからか、車が通る気配は一切ない。
そんな道を、一人の少年が歩いていた。
「寒いな……。でも上着は鞄の中だし、我慢しよう。」
少年の右手にはタイヤの付いた大きな鞄の持ち手が握られている。
周囲に響くのは少年の足音と鞄に付いたタイヤが道を転がる音だけだ。
「確か風馬はこの辺りだって教えてくれたんだけど……。」
ちょうどのタイミングで赤に変わってしまった信号機を見上げると、『羽根町北』と書かれている。
北からやって来た少年から見れば、ようやく目的の町の入り口までたどり着いたといったところだろう。
「もう少し進もう。」
少年以外には誰もいないのに信号機は規則正過ぎるテンポで赤から青に変わった。
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