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私が傘を借りたせいで、玉置くんはあんなに濡れて。
きっとあのせいで風邪を引いたに違いない。
「……ごめんなさいっ!」
私は深々と頭を下げて、とにかく彼に謝った。
――でも、返ってきたのは。
「……なんで?」
という、たった一言だった。
「だって……私が傘を借りたせいで、玉置くんに風邪引かせちゃったから……」
悪いのは、私だ。
だからちゃんと謝らなくちゃいけない。
なのに、玉置くんはふいっ、と顔を逸らして、
「……別にいい。気にするな。」
と、ぼそっ、と呟いた。
「俺が勝手に貸したんだし、気にすることないだろ。風邪を引いたのは自分のせいだ。」
「でも……!」
すると玉置くんは、まだ何か言おうとした私を手で制して、
「……もう、いいから。」
黒真珠みたいな綺麗な瞳が、私を見下ろしていて。
私はそれ以上、玉置くんに何も言えなかった。
「――おい秀司っ!お前、いつも勝手にふらっと消えんじゃねーよ!」
なんて声が、遠くから聞こえてきて。
私と玉置くんが同時に声がした方を振り返ると、こちらに走ってくるのは、やっぱり早川くん。
さすが、バスケ部なだけある。
あっという間に私達のところにやって来た。
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