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「もう、もう何もかも終わったんだよ!」
立石はたまらずそう叫んだ。すると兵たちは跡形もなく消えてしまった。残ったのは立石と梅原ただ二人であった。
梅原は静かに刀を収め、息を荒立てている立石の方に歩み寄ってきた。
「お前からその言葉が聞きたかったんだ。これでやっと俺の大東亜戦争が終わったよ。」
「やっぱり終わっちまったんだな」
本殿の奥から違う男の声が聞こえてくる。飛行服を着た長身の彼は梅原と同じ、生ける人ではない。
「西谷…貴様もいたのか」
西谷は梅原と同じくM大学の同期で、この三人は戦前無二の親友であった。
「当たり前だ俺らはなんてったってお前の建てた作戦で見事に戦死したんだからな」
「乾坤一擲、空陸一体の反攻作戦は失敗したわけだ」
立石は作戦参謀時代の自分を激しく憎悪していた。自分の発案した作戦で5万近くの将兵を失う失態を犯したからだ。
「俺は陸戦隊、西谷は航空隊の最前線。立石、お前は軍令部で高みの見物だったんだからな」
「そうか、貴様たちは要するに俺に三途の河を渡れというんだな」
「違う!生き残ったお前には俺たちの骨を拾って欲しいんだ。梅原はチバランの飛行場の下、俺はタラントス湾に愛機と一緒に沈んでいる。作戦を建てた立石、お前にはその義務がある筈だ」
西谷は涙を流しながら立石の肩を抱いた。立石は西谷の手に温もりが有ることを如実に感じていた。
「骨を拾ってからどうするかはお前に任せる。とにかく日本に帰りたいんだ。頼んだぞ」
梅原と西谷はそう言うと足元からさぁっと消えていった。そして立石が気付いた時、彼は病院のベッドに横たわっていた。そばに色白の看護師が心配そうに顔を覗きこませている。
「あっ、良かった。立石さんもう2日も意識が無かったんですよ」
立石はそれを無視すると、ムクリと立ち上がり、看護師の静止を無視して病室を出た。
それから立石老人を見た者は誰もいない。ただ、立石が病院を抜け出した半年後に身元不明の一人の老人が早朝、靖國神社の本殿前で死んでいるのが発見された。
そして、その老人は腐食の激しい日本刀二振りと二つの骨箱を大事そうに抱えていたと言う。
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