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男は丼に残っていたスープを一気に飲み干して席を立った。
カウンターの向こうでラーメンを仕込んでいた店員が一礼をする。
「ありがとうございました」
男は片手を軽くあげて答えると店の引き戸を開けて外へ出る。
しかし、一歩出た外の世界は別世界だった。
呆れかえるほどの晴天、夏の強い日差しの中、汗を流して道を歩く人々のせいで嫌気がさすほどのむさ苦しい。
そのせいか店を出た男の足が一歩目で止まる。
ラーメン屋は仕込みのせいで熱気こそあるが、人足も少なく立地条件のせいか日差しも射さないので外のむさ苦しさに比べれば涼しいくらいだ。
「あ~……もう少しここにいてもいいか? 外が暑すぎて死にそうだ……」
申し訳なさそうに振り返ると、カウンターの奥で丼を洗う店員が小さく頷いた。
「どうぞ」
「悪いな」
むさ苦しい熱気を遮断する様に引き戸を閉める。
出来る限り厚さから逃れようと店の奥のカウンターへ座ると、氷水を入れたコップが用意されていた。
無愛想に見えていいところがある、と思いながら水を飲み、丼を洗う店員を見る。
ふと目があった店員はまたもや一度礼をして丼洗いを続けた。
水を飲みながら時間が経つのを待っているとガラガラと音を立てて店の引き戸が開かれた。
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