『驚天動地』

7/28

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
引き戸の方を振り返ると、スーツを着た利口そうな顔立ちの女が立っていた。 驚くことに女は上下ともにスーツを確り着ているにもかかわらず、一切汗をかくことなくむしろ涼しげな表情で立っている。 席はどこもがらがらで1人でテーブルにも座れるはずなのに、女は迷うことなくカウンター席に座る先客の男の隣へ腰を掛けた。 「この方が食べたものと同じものをお願いします」 「分かりました」 いつの間にか女の前に移動していた店員は注文を聞くと素早く醤油ラーメンを作りに厨房へ向かっていく。 店員がラーメンを作るため離れていったのを確認し、尾神 隆也(おがみ りゅうや)は隣に座るリア・ドラードに聞こえるように大きなため息を吐き出した。 特に悪意や嫌悪があるため息ではなかったが、リアは聞こえなかったのか一切のアクションをみせない。 ただ座って店員がラーメンを作る姿を眺めている。 「用事があるなら携帯電話に、って言っただろう。プライベートでまでスーツ姿見せにくんな」 「申し訳ありません。携帯を紛失してしまっていたので、直接要件を伝えに参りました」 「すぐに買い直しとけ。パートナーなら連絡手段くらいすぐ用意しろよ」 「了解しました」 一度も目を合わせず会話が終了。 しばしの沈黙後、顔を横に向けたリアが口火を切る。 動かしたといっても相変わらず目線はまっすぐ前を見つめたまま、尾神を全く見ようとしていない。 「失踪事件はご存知でしょうか。ここ一か月ほど続いている事件です。最初は誘拐と思われていましたが、全員に共通点のないことから失踪事件として処理された……」 「さっきニュースで見たばっかりだから事件の内容について説明はしなくていい」 「了解です。ではその失踪事件で被害者は10人と報道されていますが、11人目がいるのはご存知でしょうか」 ニュースで報道されている以上の情報を知らない尾神は黙ることしかできなかった。 それを察したリアが説明を続けようとしたが……
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加