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『ははははは! すごいなぁ、フェリー! こんなに大きな船を見たのは初めてだよ。ほら、僕らの地元は海無し県だろ? 水に浮かぶ物、なんてポイ捨てされた空き缶か池で乗れるスワンボートくらいじゃん。だから感動しちゃうな! あ、ほら見境! 見て見て、車が乗り込んでるよ! フェリーって車も載せちゃうんだね! ていうか沈まないの? 飛行機を初めて見た時も、こんな鉄の塊が飛ぶ訳ないだろ、とか思ってたけどさ。……いや、理論は知ってるよ? でもほら、僕が今感じているこの感動は理論とかで表せないからね? すっげえなぁ……今からこれに乗るんだよなぁ。見境、テンション低いよ! 上げていこうぜ! そういえばさっきのファミレスでもあんまりご飯食べてなかったよね? 僕なんかセットメニュー二個頼んでスープバーとサラダバーまで付けたのに。あのファミレスもさ、地元にある所より美味しかったような気がしたし。だから食べ過ぎちゃったかなぁ。旅費は全部父さんが持ってくれるんだから、遠慮なんてしなくてよかったんだよ? ああ、ちょっとベルト緩めた方がいいかな……でも、船旅は体力勝負と聞いております! だもんでしっかりご飯を食べました! 初めてのフェリーで十時間だからね、気合いも入るさ! ……酔い止めぇ? 見境、僕を舐めてもらっちゃ困るな。そんな軟弱な薬品に頼るような男に見えるのかっ!? いや、ごめん言い過ぎた。大きい声を出し過ぎた。でもでも、やっぱり僕に酔い止めは……似合わないよ。海から吹くこの強い風を浴びて気付いたんだ。僕の本当の姿は……海の男だったんだろう、って。たまたま海無し県に生まれ落ちただけで、こうして海に帰ってくる運命だったんだろうね――――』
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