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答えることなく、目を閉じる。時折頭を動かすのは、自分の体温で温くなった便器の冷たい所を探していたからである。
そのごそごそと動いている様子が、ドアの向こうに伝わったのか。
ノックの音は更にしつこく大きくなっていく。
「うるさいな……」
隣もその隣もあるだろうに。何故こんなに弱っている僕がいる個室に執着するのだろうか。
迷惑がっていることを伝える為に、咳ばらいを一つ。
しかし鳴り止まぬノックの音。
しまいには「おーい」という声まで聞こえてくる始末である。
「……入ってます」
そう言うしかなかった。
これで諦めてくれないならば、こちらが諦めて出ていこうと思った。
だが、ドアの向こうにいる人物は予想外に「入ってるのは分かってるよ」と宣う。
知っててやってるならなお質が悪い……。
ならばこちらも梃子でも動かない強い意志を見せようではないか!
そんな気持ちで便器にしがみつく。
だからノック男が「さっきから吐き倒してるだろ? もし具合が悪いなら医者とか呼んでこようか?」と言ったのには驚いた。
「へ?」
「いや『へ?』じゃねえよ。もう一時間近く篭りっ放しだぞ、アンタ。大丈夫かよ」
どうやら僕は、かなり前にトイレに入ってきていた男から心配される程吐いていたようだ。
僕が黙ると「おーい、大丈夫かー」とまたノックされる。
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