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鏡で自分の顔を見ると、なるほど『総統』と呼ばれるに相応しい顔色をしていた。
気持ち悪さの残る口をしっかりとゆすいで、ひりつく喉もうがいですっきりさせる。
ついでに顔も洗うと、調子は戻らないが気分転換にはなった。
いつの間にか揺れがましになっている。
ハンカチを探してポケットをまさぐっていると、そんなことに気付いた。
波が収まって僕が慣れたのか、はたまた気のせいか。
船に乗っている限り船酔いは治らない、と聞いたことがある。
吐くもの吐いてすっきりしたし、多分後者が理由だろう。
それにしても、ハンカチはどこだ。
部屋に忘れたのか?
「ほら、使えよ」
見兼ねた男が後ろからハンカチを差し出してくれた。
「ありがとうございます」と受け取って、それが異様な高級感を放っていることに気付く。
「あの、これ」
「あ? 別にいいよ、好きに使えば。貰い物だし、そのブランドあんまり好きじゃねえんだわ」
いや、でも……このロゴ。高級品に縁がない僕でも知っているレベルだぞ。
さすがにこんなもので僕なんかの顔を拭くのは気が咎める。
びしょびしょの顔でどうしたものかと迷う僕に、男が「顔も拭けないのか? 俺が拭いてやろうか」とからかうように言ってきた。
「じゃあ……失礼して」
気兼ねせずごしごし、とはいかないが、ありがたく使わせていただく。
拭き終わって顔を上げると、男は楽しそうに笑っていた。
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