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ゴールデンウィーク真っ只中、そろそろ梅雨を迎えようかという時期だけれど、僕は真っ白な雪の中に立っている。赤いスニーカーで足元を踏み慣らせば、その白は融けて僕の靴下を濡らしていく。
つい先日、捻挫したばかりの僕の足首には不安なくらい、ふわふわとした、柔らかいパウダースノーの地面。
簡単に言えば、雪面だ。
しかし雪景色、雪原と表現するのは憚られる。右を見ても左を見ても、上を見たところでそこに広がるのは、無機質な壁やら鉄骨やら眩しい照明ばかり。
それもそのはず、ここは人工スキー場なのである。
天然雪のような雪、北国に行かずとも最高の滑りを~、みたいなコピーを冠している。
何故僕がこんなところに居るのか。
何故僕はここでスニーカー履きなのか。
そして何故――こんなにダサいスキーウェアに身を包んでいるのか。
疑問や恨み言を言いはじめるとキリがない。
そのほとんどが、斜面の少し下でおどおどと僕を見る彼女――見境に向けたものであることも、同じ。
彼女はちゃっかりコートを着ている。
その横に並ぶ人々も、それぞれ防寒具を身につけていた。
僕だけだ……こんなに格好悪い蛍光オレンジのスキーウェアで寒さを凌いでいるのは。
他の人はさておき、友人である見境は「一応防寒具も持って行ったら?」くらいのことを言うべきだったのではなかろうか。
雪を保つ為、常時唸りを上げる冷房のせいで寒いゲレンデ。
推理小説の解決編に演出は付き物だけれど、探偵役がこんな衣装を着なければならないのなら場所を変えても許されるのでは?
まあ――――知らないけれど。
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