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鼻をすする。
つらつらと詮のないことばかりを考えていたせいか、身体が冷えた。
冷房の唸りで幾分聞こえにくいが、登場人物が不満を述べる。
こんな場所に呼び付けて、どういうつもりか。
『どういうつもりなんですかね』という言葉は飲み込んで、「失礼しました」と笑顔で答えた。
ほら、なんかこういう時の探偵って笑顔だし。聞いた話だけれど。
一歩、また一歩と斜面を下りながら、僕は言う。
「皆さんにお集まり頂いたのは他でもありません」
手は後ろで組み、目線は少し前方の雪面。口許には笑みを浮かべ、ゆっくりと喋る。
「お気づきでしょうが僕は、つい先程まで今回このスキー場で起こった……起こってしまった事件を調べていました。何者かによって通信を遮断され、警察も救助も期待出来ない状況で過ごす三日は、辛いですからね」
ここで気遣うような笑顔を浮かべる。
反応は様々で、スキー場の支配人は理解出来ないような顔。
何とかという女性は眉間に皺を寄せて怒り気味。
被害者の付き人をやっていた彼は、どこか緊張した面持ちだ。
見境は変わらず、卑屈な目で僕を見上げている。
見境を除く三人の反応は上々なのだが……あいつめ。
僕を気遣ってついて来てくれた、とか言って本当は僕のこと嫌いなんじゃなかろうか。
知らないけれどで済ませられないぞ。
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