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ぐっと押されたように黙る恋人さん。
『確かに……』とか思ってくれたのだろうか。あまり頭のよろしくなさそうな方なので、それっぽくなくとも何か言っておけば納得するらしい。
楽でいいよね。
話す方も聞く方も。
さて。やはり納得してくれていない見境は無視し、僕は両手を広げて言う。
「ただ、安心してください。僕は信じています! 僕と友人にあの二人を殺す理由がないこと。支配人にとって彼らが、不意に神様と呼び間違えてしまいかねないほど大切なお客様だったこと。貴女にとって、スキーヤーさんは最愛の恋人でありコーチは恋人の恩師、その恩師をスキーヤーさんと同じように尊敬していたこと。そして……」
タメ。
僕の両目は、珍しく一人だけを捉えている。
この寒い中、青い顔をしながら、なのに僕と同じように鼻をすするでもなく――――額に汗を浮かべている付き人の彼だけを。
じっと見つめる。
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