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「貴方です……御堂新さん。僕は貴方だけは、何があっても疑わないと決めていました。貴方を疑うのなら、僕は――僕自身や友人があの二人を殺害した可能性の方が高くなるとさえ思っています。だって、新さんは言ってましたよね……」
周りを置いて、僕と新さんの会話(とはいっても僕が語りかけているだけ)は続く。
思い当たるところを見つけたらしい新さんは、額から流れ落ちそうな汗をコートの袖で拭った。
「『僕はあの二人に、とても感謝しているんだ。膝を壊して選手としての命を絶たれてしまった僕を、それでも大好きなスキーに関わらせてくれた。生きていく場を提供してくれた跳さんとコーチを本当に尊敬している。僕は跳さんのように滑ることこそ出来ないが、スキーを辞めて何もかも失ってしまったが、幸せなんだ』って。あの話を聞いたとき、僕の胸は震えました」
ぐっと拳を握ってみせる。
自分で言っておいてなんだが、自身の言葉に感じ入るような何かを覚えた。
新さんは、確かに僕に話してくれたのだ。捻挫をした僕に手当てをしてくれていた彼は、僕がふと投げかけた話の種にそう答えた。
ああ、なんて素敵な言葉なのか。
「……すみません、先に進みますね。ここまで聞いていただいたので、既にお分かりかと思います。僕は今、この場に居る全員の『この方が犯人ではないか』という可能性を否定しました。そこから導き出される答えも、自ずと見えてきますよね?」
……思っていたより反応が悪い。理解しているのは、見境と支配人の二人だけらしい。
あとの二人はきょとんとしている。
一人は僕の話に呑まれたせいだろう。もう一人は……単に理解力が欠如しているらしい。
まあいい、結論を言うまでもう少し引き延ばしてもよかったけれど――ここらが潮時だろう。
僕は、答えを言うことにした。
「あの二人は、誰に殺された訳でもありません。あの密室も、全員にあったアリバイも、全て当然のことだったんです。何故ならあの二人は…………頭を潰すような、腸をぶちまけるような、部屋の床が血みどろになるような凄惨なやり方で――――」
「自殺をした、だけなんですから」
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