自暴自棄という字を飲み込んでみる

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「く、くさ?」  言われ、むっつりと腕組みした男の鋭い視線の先を四つん這いになりながら追いかけてみれば、先程わたしがこれでもかと引っこ抜いていた哀れな白詰草の儚い残骸が、石畳にまで広がっていた。 「万物には魂が宿っている。草にも、木にも、花にもだ。命は軽んじるものではない」  さして暑くもないのに、優雅な仕草でぱたぱたと扇で煽ぐ男。そうか、これが雅というやつか。  銀の髪の間に、小さな三角形の乳白色の塊がちらちらと見えて、わたしはそればっかりが気になってぼんやりと見上げてしまっていた。  ――なんなの、このヒト。  ううん、人間に見えない。かといって幽霊っぽくもない。けれど常人では発し得ない優麗な空気を醸し出して(いる気がして)、わたしは男の全身をじろじろと観察していた。 「これ」  ぽこん。 「あいタッ」  再び扇ではたかれる頭。今度は角が見事にクリーンヒットして、わたしはぺたんとその場に座り込んだまま無慈悲な攻撃を受けてしまった頭頂部を撫でてやる。 「そう乙女が男をじろじろと。はしたない」 「……はぁ……スミマセン」  自分でもそうと分かるほど誠意のない謝罪に、しかし男は満足そうに頷く。 「あの……何の用ですか。ていうか、どなたでしょうか……」  また扇ではたかれるかもしれない危惧が、わたしの声を後半になるにつれ小さくさせる。男はギロリとわたしを強く睨みつけた。 「お前がおれを呼んだのだ。全く、何十年ぶりかに外に出て見れば、こぉんな貧相な女とは。挙げ句草をぶちぶちと嘆かわしい」
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