84人が本棚に入れています
本棚に追加
揺れる振動で目を覚ます。
彼は普段よりも高い位置から映る景色により、どうやら入口付近まで担がれて来たのだと理解をした。
「ハァ……。」
と小さくため息を吐くと、気が付いたのか。彼を担ぐ大柄な男が言葉を掛ける。
「起きたか?」
「あぁ、起きたから降ろしてくれないか?」
すると担いでいる男は、疑問に満ちた声で質問に答えた。
「逃げるだろ?」
言われて、もう一度ため息混じりに言葉を放つ。
「逃げはしないから。」
弱々しい声を聞いた男は、観念した様子に応え、彼を肩から降ろした。
それから自分の脚で歩き始めると、直ぐに大柄な男へ疑問をぶつける。
「何処に連れてくんだ? 俺を。」
「入口に停めてある車までだ。」
と答えられ、黒塗りの車を思い出す。
しばらく歩き、入口まで戻ると、例の車が目の前に停まっていた。
大柄な男が車のドアを開き、中へ入れと促す。
「あぁ……入ればいいんだろ、入れば。」
渋々車の中へ入ると、眼鏡を掛けた黒いスーツの男が、頬を緩ませながら待ち構えていたのである。
知的な雰囲気を漂わせるその男は、不敵にも足を組んだまま声を掛けて来たのだった。
「やぁ、初めまして。」
最初のコメントを投稿しよう!