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ーーーーーー 「高太…」 ロッカールームで着替えていると、木下が俺の名前を呼んだ。 「ん…?」 「頼みがあるんだけど…」「金なら貸さねぇよ」 俺はわざと真面目な顔をして言った。 「そんなんじゃなくて…」「ジョーダンだよ。で、何だよ」「診てもらいたい娘がいるんだ」 「俺に?」 俺が聞くと木下は頷いた。 「なんで?」 胸にプレートをつけながら俺は聞く。 「おまえなら助けられるかもしれないから…」 「どこの娘?」 「内科病棟308号室…」 「分かった。あとで行く」そう言って、俺はロッカールームを出た。 その娘のカルテを借りて見ながら歩いた。 なんとなく行く末が見えた。そうなるだろう…ことがふと分かった。 ノックをすると男の声がした。ドアを開けると木下が走り寄ってきた。 「なんでおまえがいるんだよ」 俺が聞くと、木下は慌てた様子で答えた。 「事情は後で話すよ。…それより…」 木下は俺をベッドのそばまでつれていった。 顔色の悪い女の娘が苦しそうに眠っていた。 俺はしばらく女の娘のことを見ていたけど、気になることがあってその娘の顔の横にかがんだ。 「木下…」 俺は呟いた。 「…ん…?」 不安そうな声が返ってきた。「ほれてるのか…?」 「え…」 俺はうつむいたまま言った。「この娘にほれてるのか?」数秒の沈黙のあと「あぁ」という短い答えが返ってきた。
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