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「手術やっぱり駄目か?」 木下が打ち合わせのあと聞いてきた。 「悪いけど」 俺はイスから立ち上がった。 ついこの間、貴子にあう腎臓が見付かった。これでやっと手術が出来る。貴子を救える。でも俺は貴子の担当じゃない。手術は俺がやるべきじゃない。 「唐沢医師(せんせい)」 「はい?」 呼ばれて振り返ると貴子の担当の一条医師が立っていた。 「手術…やっぱり駄目ですか?」 「俺は小児科医ですから」「でもあなたが治療したら貴子ちゃん元気になったじゃないですか」 「手術は一条医師がするべきです。貴子の担当なんですから。失礼します」 俺は頭を下げて小児病棟に向かった。 「あんた彼女とうまくいってないの?」 次の日の昼頃、屋上で貴子が突然言った。 「え…」 「あっ…彼女いるんだ」 貴子が嫌味っぽく言う。 「いるよ」 俺は空を見ながら言った。 「うまくいってないの?」貴子が俺の顔を見る。さっきと違ってさみしそうな表情(かお)をしている。 「どうでもいーだろ、そんなこと」 俺は貴子から目をそらした。
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