1人が本棚に入れています
本棚に追加
「手術やっぱり駄目か?」 木下が打ち合わせのあと聞いてきた。
「悪いけど」
俺はイスから立ち上がった。 ついこの間、貴子にあう腎臓が見付かった。これでやっと手術が出来る。貴子を救える。でも俺は貴子の担当じゃない。手術は俺がやるべきじゃない。
「唐沢医師(せんせい)」 「はい?」
呼ばれて振り返ると貴子の担当の一条医師が立っていた。
「手術…やっぱり駄目ですか?」
「俺は小児科医ですから」「でもあなたが治療したら貴子ちゃん元気になったじゃないですか」
「手術は一条医師がするべきです。貴子の担当なんですから。失礼します」
俺は頭を下げて小児病棟に向かった。
「あんた彼女とうまくいってないの?」
次の日の昼頃、屋上で貴子が突然言った。
「え…」
「あっ…彼女いるんだ」
貴子が嫌味っぽく言う。 「いるよ」
俺は空を見ながら言った。 「うまくいってないの?」貴子が俺の顔を見る。さっきと違ってさみしそうな表情(かお)をしている。
「どうでもいーだろ、そんなこと」
俺は貴子から目をそらした。
最初のコメントを投稿しよう!