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検査の終わった貴子を車イスに乗せて歩いていると誰かが前に立った。
俺は顔を上げて驚いた。 「景…子…」
景子は俺の前に歩いてきて、いきなり俺のほっぺたを叩いた。そして去って行こうとした。
「…ちょっと待てよ!」
俺は慌てて叫んだ。景子は振り返って言った。
「…優しさは人を傷付けることもあるのよ。…おぼえておくと良いわ」
それだけ言って景子は去って行った。
《優しさは人を傷付けることもあるのよ》
その言葉の意味を俺は考えていた。
「どうして追いかけなかったねよ」
貴子があきれたように言う。俺は何も答えなかった。 「好きなんでしょ?」
優しさは人を傷付ける… 「愛してるんでしょ?」 優しさ…
「…ちょっと、聞いてるの?」貴子は俺を自分の方に向けた。
「なんだよ」
俺は呟く。
次の瞬間貴子は俺のほっぺたを叩いた。
「いてぇな」
「…だからあんたは良い加減だっていうのよ!好きなんでしょ!愛してるんでしょ!なにかっこつけてるのよ!…景子さんのことしかみてないくせに…」
貴子は俺のえりもとをつかんで言う。
俺の目から涙が流れた。
慌てて涙をふいて俺は貴子の手をどけた。
そして、ドアに向かった。 「逃げるの?」貴子が責める様に言った。
俺は足を止めた。
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