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「ふぅん、そう」
パチ──。
いつものことである。本来なら部員は六人いる筈だが、終礼が終わって既に三十分強。恐らく関目と僕以外の部員は、もうこの学校内には残っていないだろう。
別に、どうでもいいことなのだが。
パチ──詰み。
「ねぇ、今度はあたしと打とうよ」
終局した盤を確認してから、関目は僕にそう言っていた。
「いいよ、別に」
「んじゃ、あたし王様もーらいっ」
問答無用で関目は、終局した盤から王将の駒を手に取り、元の位置に置いていた。
僕は玉将の駒を取って、それぞれの駒を各位置に置いていく。
二人とも駒を並べ終えると、王将である関目が先手でゲームが始まった。
パチ──。パチ──。……パチ──。
「神城くんってさ」
僕の名字。
「なんか、いつも楽しそうだよね」
ゲーム中盤、関目の飛車が僕の桂馬を取った直後の発言だった。
「そう?」
「うん」
「なんで?」
パチ──。関目の飛車を、忍ばせていた角で取る。
関目は「う……」と口をへの字に曲げてから、
「だってさ、いつも笑ってるじゃない。ああ、気持ち悪いって意味じゃないよ? 気持ち悪い笑みってワケでもないし。──ただ、楽しそうに、いつも微笑んでるよね」
「……そうだね」
「あ、自覚あったんだ」
クスクスと、関目は楽しそうに笑っていた。
自覚はあった。僕が人生をゲームだと思い込んでから、妙に口元の筋肉が緩み始めたのだ。
それは、僕がテレビゲームをしている時と同じで。
僕が人生という名のゲームを、楽しんでいたからだった。
「そうじゃなかったら、僕はただの変態だよ」
「ごめん、あたしは君のこと、もう変人だと思ってるから」
変人と変態じゃ、随分な差がある気がする。
僕は一息吐いて、
「次、打たないの?」
と促した。
「長考ってヤツよ」
「じゃあ、喋らないで考えてくれ」
「あたしは喋ってた方が閃き易いタイプなの」
「現に閃いてないよね」
「易いってだけ。別に絶対閃くワケじゃないもん。だから長考」
「タチが悪いな」
「神城くん程じゃないと思うけど」
「……どういう意味?」
少し真剣になって、聞いた。
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