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「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ? いつもニコニコしてるから、何考えてるか解んないし。それって将棋だけじゃなくて、殆どのゲームで有利なんじゃない?」
「それは──」
それは、人生ゲームでも有利なのかな。
問おうとして、やめた。
関目に言っても、意味が無い。僕が望む返事は帰ってこない。
それでも思わず言いかけてしまったのは、それだけ僕はこの人生ゲームを、クリアしたがっているからだった。
「それは、あまり関係ないと思う」
「そうかな。ま、良いけど」
パチ──。
関目が次の手を打った。本当に長考したのか怪しくなる程、馬鹿馬鹿しい一手だった。
パチ──。
「王手」
「むぅ、意地悪」
「将棋ってこういうゲームじゃなかったっけ」
「手加減してって言ってるの」
「充分したよ」
「んぅ? 遠回しにあたしが弱すぎるって言ってるの?」
「言ってない。──手加減は充分したけど、あくまでも僕が勝てる範囲でだ」
「それって、結局意地悪じゃない」
「僕は楽しくゲームが出来れば、それで良いんだよ」
「あたしの気持ちは関係なし?」
「無いとは言い切れないな」
「日本人っぽい言い方だね。あたしはそういうの、なんか嫌い」
パチ──。苦し紛れの一手。
彼と同じようなことを言った関目は、特に何も考えていないかのように、ただ頬杖を付いて盤上を眺めていた。
「じゃあ、関係ないって言い切ろうか?」
パチ──。追い撃ちを掛ける。
「それもそれで嫌ね」
パチ──。逃げる王将。
じゃあ、彼女は一体どんな言い方を好むのだろうか。どう言えば彼女の気を悪くせずに、返事をすれば良かったのだろうか。
実際、あるとは言い切れないし、無いとも言い切れなかった。何とも曖昧なことだった。あると言い切れば、僕のゲームにおける価値観が、ガラリと様変わりしてしまうような気がして、無いと言い切ろうにも、現に関目は嫌と発言している。
そもそも、そういう言い方を余儀無くされる問いを投げ掛ける方に、問題があるんじゃないか。
と、自分があまり意味の無い思考をしていることに気付き──
「良いじゃないか。僕らは、日本人なんだから」
パチ──。
「詰み」
決めた駒は、金将だった。
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