部活、将棋、人生ゲーム

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「あーあ、また負けちゃった。勝てないと将棋って面白くないね」 「ゲームは勝っても負けても、面白いよ」 「神城くんはいつも面白そうだけど」 「そりゃ、人生は楽しいよ」 「そんな考え方が、あたしは羨ましいかな」 「そう?」 「うん」  そう言って、関目は盤上の駒を駒入れに戻し、鞄を手に取って席を立った。 「帰るの?」  まだ下校時刻まで時間がある。 「駄目?」 「別に、良いんじゃない?」  元々、真面目に活動してる部員なんて居ないんだし。部活動なのかどうかすらも、怪しい部活だ。形だけの顧問の顔も、もう覚えていない。 「じゃあ、あたしはもう帰るけど」 「うん、気を付けて」  僕の言葉を背に、関目は部室の扉に手を掛けて、 「ねぇ、リクくん」  少しだけ振り返って、僕の下の名前を呼んで。 「あたしと付き合ってくれない?」  そう、言い放った。  その問いに、僕は少しだけ間を置いて 「良いよ、付き合おうか」  断る理由も無くて、了承した。  関目が僕に少なからず恋心を抱いていたのは、何となく解っていた。  元々、囲碁・将棋部なんていう廃れた部活に毎回来るのは、僕にも関目にもそれ相応の理由がある。  僕は言わずもがな、人生という名のゲームのメインシナリオをクリアする為に来ていたが、じゃあ関目の理由は何なのか。  三十分も友達と喋っていられる程、友人関係も悪くない関目がここに来る理由なんて、ある程度解っていた。  それが、僕への恋心である。 「ふふ」  嬉しそうに、関目は笑っていた。 「じゃ、一緒に帰ろうよ。リクくん」 「今、部活中」 「恋人と部活、どっちが大事なの?」 「……恋人かな」  少し悩んで、そう答えた。  人生ゲームで恋人なんて出来たこと無いけど、ゲームの中の主人公は、そこまで融通が効かない人間じゃないと思ったから。  僕は将棋盤を片付けて、鞄を肩に下げた。  扉付近で待っている関目と一緒に部室を出て、肩を並べて歩く。  隣で歩く関目は僕より頭半分小さくて、ほんのりと甘酸っぱい香りがした。
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