0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あーあ、また負けちゃった。勝てないと将棋って面白くないね」
「ゲームは勝っても負けても、面白いよ」
「神城くんはいつも面白そうだけど」
「そりゃ、人生は楽しいよ」
「そんな考え方が、あたしは羨ましいかな」
「そう?」
「うん」
そう言って、関目は盤上の駒を駒入れに戻し、鞄を手に取って席を立った。
「帰るの?」
まだ下校時刻まで時間がある。
「駄目?」
「別に、良いんじゃない?」
元々、真面目に活動してる部員なんて居ないんだし。部活動なのかどうかすらも、怪しい部活だ。形だけの顧問の顔も、もう覚えていない。
「じゃあ、あたしはもう帰るけど」
「うん、気を付けて」
僕の言葉を背に、関目は部室の扉に手を掛けて、
「ねぇ、リクくん」
少しだけ振り返って、僕の下の名前を呼んで。
「あたしと付き合ってくれない?」
そう、言い放った。
その問いに、僕は少しだけ間を置いて
「良いよ、付き合おうか」
断る理由も無くて、了承した。
関目が僕に少なからず恋心を抱いていたのは、何となく解っていた。
元々、囲碁・将棋部なんていう廃れた部活に毎回来るのは、僕にも関目にもそれ相応の理由がある。
僕は言わずもがな、人生という名のゲームのメインシナリオをクリアする為に来ていたが、じゃあ関目の理由は何なのか。
三十分も友達と喋っていられる程、友人関係も悪くない関目がここに来る理由なんて、ある程度解っていた。
それが、僕への恋心である。
「ふふ」
嬉しそうに、関目は笑っていた。
「じゃ、一緒に帰ろうよ。リクくん」
「今、部活中」
「恋人と部活、どっちが大事なの?」
「……恋人かな」
少し悩んで、そう答えた。
人生ゲームで恋人なんて出来たこと無いけど、ゲームの中の主人公は、そこまで融通が効かない人間じゃないと思ったから。
僕は将棋盤を片付けて、鞄を肩に下げた。
扉付近で待っている関目と一緒に部室を出て、肩を並べて歩く。
隣で歩く関目は僕より頭半分小さくて、ほんのりと甘酸っぱい香りがした。
最初のコメントを投稿しよう!