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しばらくすると本当に、智久が店に来た。 『いらっしゃい。』 亮チャンがそう声を掛けると、智久は椅子に座った。 すると亮チャンはギリギリの位置に立ってくれて、俺はじっと智久を見ていた。 『今日はどないしたん??』 『また、Snow tearsの注文が来たんだ。』 そう言った智久に俺は声が出そうになった。 Snow tearsは、俺が智久に将来はそのブランド名にしてほしいと言ったものだった。 『Snow tearsって、人気なんやな。』 『そりゃ、俺が一番力を入れてる作品だから。』 『そうか。かめとの思い出やからな。』 そう言って亮チャンは後ろを振り向いた。 目が合っても、亮チャンは話を続けた。 『かめのこと、やっぱ好きなんやな。』 『諦められないんだ。もう一度、会いたいと思っちゃう。』 そう言われて俺は泣きそうになった。 正直言って、俺は智久を見た瞬間に泣きそうになっていた。 『会ってどうするん??』 『わからない。けど、触れたい。』 『そうか。』 『あ、まだ仕事なんだ。』 『そうか。これ、夜食に食べて。』 『ありがとう。』 そう言って智久は帰っていった。 その瞬間、俺は涙が溢れた。 『かめ。』 そう言って亮チャンは俺の髪を撫でた。 しばらくすると涙が止まり、俺は亮チャンに話しかけた。 『今日、雄兄が来たんだ。』 『そう。』 『雄兄も智久に会えって言ってた。』 『荒れてたさかいな。かめと離れてからしばらく。』 『だからだよ。』 そう言って俺はカウンター席に座った。 『かめ。』 『だから、離れたんだ。いつかは離れなきゃいけないから。』 『どういう意味や??』 亮チャンにそう聞かれて、俺は覚悟を決めた。 『俺、ガンになった。』 『は??』 『胆のうガン。ずっと治療してたんだけど、もう手術が出来ない所まで来たんだ。』 そう言うと亮チャンは俺の手を握った。 『俺がね、この街に帰ってきたのは、やりたいことを思いっきりしたいからなんだ。』 『かめ。』 『ごめんな。再会してすぐにこんな感じになって。』 そう言って俺は立ち上がった。 『もう帰るわ。』 そう言って俺は店を出た。 それからまっすぐ家に帰った。 すると雄兄は帰ったみたいで、俺はそのまま寝室に向かい、ベッドに横になった。 貴方に会って、俺は苦しかった。 貴方を忘れられない気持ちが、こんなにもリンクするとは思っていなかった。 願わくは、このまま貴方を影で見守りたい。 わがままかもしれないけど。
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