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最後に僕は、火事のあったアパートの3人目の住人、中林さんを訪ねることにしました。
中林さんはフリーターさんで、今は居酒屋のアルバイトを主として働いているそうです。
中林さんが勤める居酒屋「へべれけ」に向かいます。
途中で火事のあったアパートの前を通りすぎました。
左右田さんが依頼した鳥の巣箱を確認しようとしましたが、木の葉で隠れて見えませんでした。
ただ、木が燃えたような跡はなかったので、恐らく無事でしょう。
「あー、中林さんね、ちょっと待ってて」
僕は居酒屋の店長に、中林さんの知り合いと騙り、住所を聞きました。
そういえば、中林さんから引っ越しの依頼を引き受けたことがあるような…
あ、思い出しました。
あのアパートの2階から1階に引っ越す作業を頼まれたことがあります。
でもなんで、同じアパートの2階から1階に引っ越したんだろう。
店長から住所を聞いた僕は、その場所へと赴きました。
そこは、中林さんの実家でした。
「あー、こないだの便利屋さん」
玄関先で僕を確認した中林さんは、快く室内へ案内してくれました。
「特に依頼はないけど、どうかしたんですか?」
中林さんは湯飲みをテーブルに置きました。
「いえ、火事があったので、どうしてるかな、と思って」
僕は身も蓋もない言葉でその場をしのぎます。
「あー、あれね。いつかやるんじゃないかと思ってたよ」
中林さんは、自分の湯飲みをあおりながらそう言いました。
何か知っていそうな発言に、僕はすかさず突っ込みます。
「と、おっしゃると?」
「いや、こっちもいい迷惑だったんだよ。本当に…」
結局、中林さんはそれ以上のことは話してくれませんでした。
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