【1】便利屋TASKの者です

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住所の場所へは、自転車で向かいます。 自動車の免許証は持っていますが、ペーパードライバーです。 しばらく漕いでいると、依頼者のもとに辿り着きました。 2階建て木造アパートの、2階部分が真っ黒焦げでした。 つい最近、火事があった場所でした。 ニュースでは放火ではない、と報道されていました。 1階、火事現場の真下の部屋のチャイムを鳴らします。 若い男性が出てきました。 「便利屋TASKの者です」 僕は名刺を差し出しました。 「ああ、よろしくお願いします」 男性は名刺を受け取ると、僕を部屋に案内してくれました。 男性の名前は下谷真道(しもたに まさみち)さん。 「今は仮の住まいに居ます。家具や生活必需品はそんなにないので、全部捨てちゃってください」 下谷さんが言いました。 「了解です」 僕は作業を始めます。 天井が黒く焦げています。 鎮火作業の後なので、時々水がポタポタと落ちてきます。 下谷さんがおっしゃる通り、部屋に荷物はほとんどありませんでした。 布団とテーブルと小さなキャビネット、それくらいです。 ただ、ところどころ水たまりがあり、部屋中びしょびしょに濡れています。 水でふやけた雑誌や新聞が目にとまりました。 持参したゴミ袋にポイポイと入れていきます。 下谷さんは部屋の外で僕の作業を見ているようです。 不意に、下谷さんがどんな人なのか気になりました。 「下谷さん、ご職業は?」 「医科大学の6年生、1年留年してます」 下谷さんは苦笑いを浮かべます。 ということは、今年で25歳かぁ。 留年…か。
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