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「火災直前の、上村さんの行動は分かりますか?」
僕は被害者のことをもう少し聞いてみることにしました。
「火災前日の、日付が変わる前くらいに帰ってるっすね。なんでも、『約束があるから』って途中で切り上げたみたいっす」
博司さんがそう言いました。
「約束?」
「どんな約束かは聞いてないっすけど、上村さんのカノジョらしい人が、火災当日の昼頃から会う約束をしてたらしいっす」
僕は疑問に思いました。
「カノジョ“らしい”とは?」
「あくまで彼女の証言っす。名前は左右田和里(そうだ かずさ)、25歳。職業はアパレルショップの店員っす」
博司さんがそう答えました。
「会う約束があるから早めに帰って…朝7時に出火、ですか」
どうも合点がいかないなぁ。
何かありそうな気がしました。
「ちなみに、燃えたアパートには3人住んでいて、上村さんと下谷さん、あと中林光昭(なかばやし みつあき)さんっす。中林さんは1階、下谷さんの隣の部屋っすね」
あのアパートは2階建ての2部屋ずつ。
ということは、上村さんの隣の部屋は空き家だったのか。
「アパートは某会社の賃貸物件で、一般に言う大家さんはいないっすね」
博司さんが情報を付け足しました。ということは合鍵は…?
「合鍵は?」
「某会社が管理してるっすね。オリジナルは上村さんの部屋にあった、カバンの中のキーケースに仕舞ってあったっす。都内の鍵屋さんに問い合わせてみても、複製した記録はないとのことっす」
つまりは完全に密室…ってことかぁ。
「ありがとうございました」
「いえいえ、いつでも協力するっすよ」
僕は博司さんにお礼を言うと、警視庁を後にしました。
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