【1】便利屋TASKの者です

9/10
前へ
/40ページ
次へ
僕は、“カノジョ”こと左右田さんの自宅を訪ねることにしました。 実は数週間前、左右田さんから依頼を引き受けたことがあったんです。 依頼内容は、親戚の子どもが作った鳥の巣箱を設置してほしい、というものでした。 確か設置した場所は…あれ、火災があったアパートの敷地内のイチョウの木だ。 しかも燃えた部屋に近い場所に設置したはず。 燃えていないか心配になりました。 しかしながら僕は、先に左右田さんを訪ねることにしました。 玄関のチャイムを鳴らすと、化粧をしていない左右田さんが顔を出しました。 目が赤く、先ほどまで泣いていたみたいです。 「どちら様でしょう…?」 そう尋ねた左右田さんですが、僕を覚えていたらしく、 「あ、便利屋さん。以前はありがとうございました」 そう言いました。 僕は「いえいえ」と営業スマイルを浮かべます。 しかし左右田さんは僕が訪問してきた理由が分からないようで、首を傾げています。 「えっと、先日あった火事のこと、覚えてますか?」 僕はストレートに尋ねました。 左右田さんは顔を一瞬強張らせ、小さな声で「はい」と答えました。 「上村さんとは、どういったご関係で…?」 僕はまたもや、ストレートにそう尋ねてしまいました。 「カノジョ…って言ったら良いのかな、トッくんの」 トッくんは上村さんのことでしょう。 「上村さんは、どうお思いだったんでしょうか」 僕は何気なく聞いてみます。 「トッくんは私のこと好きでしたから、カノジョだと認識していたんだと思います。『付き合おう』とは言われてないけど…」 左右田さんはそう言うと、我に返ったような顔をして、 「なんでそんなこと聞くんですか…?」 と言いました。 僕は、 「すみません、興味本意で調べてるだけなんです」 と答えました。 左右田さんはため息をひとつつくと、 「トッくんのこととか、火事があった日のこととかは警察の方に話しています。すみません、お引き取りください」 と言い、玄関のドアをパタンと閉めました。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加