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僕は、“カノジョ”こと左右田さんの自宅を訪ねることにしました。
実は数週間前、左右田さんから依頼を引き受けたことがあったんです。
依頼内容は、親戚の子どもが作った鳥の巣箱を設置してほしい、というものでした。
確か設置した場所は…あれ、火災があったアパートの敷地内のイチョウの木だ。
しかも燃えた部屋に近い場所に設置したはず。
燃えていないか心配になりました。
しかしながら僕は、先に左右田さんを訪ねることにしました。
玄関のチャイムを鳴らすと、化粧をしていない左右田さんが顔を出しました。
目が赤く、先ほどまで泣いていたみたいです。
「どちら様でしょう…?」
そう尋ねた左右田さんですが、僕を覚えていたらしく、
「あ、便利屋さん。以前はありがとうございました」
そう言いました。
僕は「いえいえ」と営業スマイルを浮かべます。
しかし左右田さんは僕が訪問してきた理由が分からないようで、首を傾げています。
「えっと、先日あった火事のこと、覚えてますか?」
僕はストレートに尋ねました。
左右田さんは顔を一瞬強張らせ、小さな声で「はい」と答えました。
「上村さんとは、どういったご関係で…?」
僕はまたもや、ストレートにそう尋ねてしまいました。
「カノジョ…って言ったら良いのかな、トッくんの」
トッくんは上村さんのことでしょう。
「上村さんは、どうお思いだったんでしょうか」
僕は何気なく聞いてみます。
「トッくんは私のこと好きでしたから、カノジョだと認識していたんだと思います。『付き合おう』とは言われてないけど…」
左右田さんはそう言うと、我に返ったような顔をして、
「なんでそんなこと聞くんですか…?」
と言いました。
僕は、
「すみません、興味本意で調べてるだけなんです」
と答えました。
左右田さんはため息をひとつつくと、
「トッくんのこととか、火事があった日のこととかは警察の方に話しています。すみません、お引き取りください」
と言い、玄関のドアをパタンと閉めました。
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