小話

2/21
前へ
/141ページ
次へ
[魅了する音] (ロニアさん×敦司) それは普段と変わらないある日のこと。突然敦司に呼び出された。 敦司 「ロニアさん…お願いがあるんです…」 そう言った敦司の顔は青ざめている。よほど困っているに違いない。 ロニア 「どうした。私に出来ることならしてやる。言え」 敦司 「あの…… ………い、一緒にクロドさんの所に行ってください…ッッ!!」 …なんでもこういうことらしい。 あの男が仕事でとある貴族相手に楽器を売ることになったのだが、取引先の相手に買い取る前にその音色を聴いてみたいと言われたらしい。 そして敦司がその楽器を弾けると知って演奏の依頼をしてきたのだが…貴族という上級身分を相手に弾いたことがなく緊張してしまった上に、クロドという男が怖くて仕方ないという。 …ここまで怖がるのは理由があるのではと問い詰めたが意地でも口を割ろうとしなかった。なかなか強情。 まぁ断る理由もないと片方目を借りて着いてきたのだが…。 ロニア 「ほぅ…これは見事だ…」 着いていった先の貴族の館に置かれていたその問題の楽器は、古いながら状態も良さそうな丁寧で細かい金細工の施された美しい琴。かなり名のある職人に作られたものではないだろうか。 貴族 「いやいや、無理を言ってすまない!今日は娘の誕生日でね…特別なプレゼントをやりたかったんだ!」 買い手らしき恰幅のいい男は陽気に笑う。隣でその娘が大人しい笑みを浮かべて上品に会釈をした。ふん、金に溺れた貴族の令嬢にしては教育がなっている方と言えるな。 クロド 「いえ、構いません。大事なお嬢様のお誕生をお祝い出来るなら私共も嬉しい限りです。 ……ところで、その方は?」 クロドが私に視線を向ける。 ……不愉快な男だ。顔に貼り付けた笑みにはなんの感情もない完璧なまでの作られたもの。上部だけの言葉。商人としては優秀かもしれないが、私は好かん。 Next...
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加