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演奏が終わると、酔いが覚めぬように呆けていた貴族達だがハッと我に返ると大きな拍手をあげる。
貴族
「いや、実に素晴らしい演奏だ!まさかこの若さであれほどの演奏をするとは…娘の誕生日に最高のプレゼントになったよ、本当にありがとう!!」
令嬢
「素敵な演奏でした…まだ耳の奥に残っていて、目を閉じれば綺麗な雪景色が見えてくるよう…」
貴族達は敦司に駆け寄りその腕前を賛美する。敦司はそれに照れたようにただ「ありがとうございます」と一言告げた。
クロド
「……私としたことが、時を忘れるようでした」
ロニア
「ふん、貴様の言葉はどこまでが本当か読めん」
クロド
「おや、これでも本当に感動しているのですよ?
……しかし貴方にとっては困ったことになったようですね」
ロニア
「………なに?」
クロドに示されるまま再び視線を敦司に戻した。
令嬢
「あの…敦司さん、このあとよろしければお食事でもご一緒出来ればと…」
そう言って敦司の腕に触れる令嬢の瞳はどこか熱を帯び、頬も微かに赤く染まっていた。その声も始めより少し音が高い。
その理由は嫌でも分かる。
……恋だ。今の演奏であの令嬢は敦司にすっかり魅了されてしまったらしい。
もちろん、私はとてつもなく不愉快な訳だが。
ロニア
「敦司」
名を呼べば敦司はこちらに一度顔を向けてから再び令嬢のほうを向く。
敦司
「すいません、今日はちょっと…」
令嬢
「…そう、ですか」
残念そうに手を離した令嬢に一度頭を下げて敦司は私に駆け寄ってくる。
貴族
「もうお帰りかね?良ければまた演奏をしに来ておくれ」
上機嫌の男はクロドと取り引きを完了させるため話をしに別室へと向かう。
これ以上この場に残る意味はないと敦司の手を引いて出ていこうとしたのだが……。
敦司
「あ、あの!…お誕生日おめでとうございます、お嬢様」
令嬢
「!…あ、ありがとう、ございます…////」
ニッコリと笑顔で言った敦司に令嬢は耳まで赤くなる。
……コイツ、あの令嬢の気持ちに気づいていない…!!
不愉快な気持ちが増して敦司を引きずるようにしてその場を立ち去った。
(ロニアさん、なに怒ってるんですか!?)
(お前は!どこまで!鈍感なんだ!!)
(え、えぇぇぇ…??;;)
End.
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