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高揚する気分と、熱を帯びていく体をもて余したのか、やがて男はゆったりとした歩みでダンスフロアへ向かう。
一曲が終わり、歓声に包まれる暗闇を突如眩いライトの光が照らす。
フロアの中心、そこに照らし出された姿に息を呑んだ客の視線を一身に集めた男は、低い、甘い声で呟いた。
『始めよう』
それが合図かのようにスピーカーから流れた重低音。
ライトの光が消えた暗闇に魔法陣のような模様を描いて赤く浮かび上がったフロアの上で、ブーツの爪先と踵がリズムを刻み始める。
男は愉しそうだ。
無邪気ともいえるその様子は、見守っていた客達にアップ系のクスリをキメているんだと悟らせるには十分だった。
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