3:悪夢をみせて

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それから、何か水音のような物音が聞こえたと思ったら、消毒薬の匂いが染み付いた保健室には似つかわしくない匂いが流れてきた。 一度大きく息を吸い込んだだけで、すぐに分かった。 爽やかな柑橘系の香り。 そう頭に浮かんだ瞬間、ドクンと胸が大きく跳ねて、途端に息苦しさが彼女を襲う。 落ち着け、落ち着け。何度も深く呼吸を繰り返しながら唱えても、なかなかそれは治まらない。 どうしてなのか分からない内に、彼女の手は動いていた。 ポケットに手を入れて、乾いた音を立てながら箱を取り出す。 その赤い箱に印刷された『プチショコラ』という金色の文字は、折れ曲がって所々にヒビが見える。
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